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大阪地方裁判所 平成2年(ヨ)1064号 決定

申請人

国土一生コンクリート株式会社

右代表者代表取締役

眞壁重雄

右代理人弁護士

中川泰夫

被申請人

全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部

右代表者執行委員長

武建一

右代理人弁護士

永嶋靖久

森博行

主文

一  申請人が被申請人に対し金一〇〇万円の保証を立てることを条件として、被申請人は、その所属の組合員または第三者をして、申請人の製造する生コンクリートを申請人工場からコンクリートミキサー車により搬出し、もしくはその材料をセメントローリー車により同工場へ搬入するのを、右車輌の前面に立ちふさがり、あるいは車輌その他の妨害物を置く等の実力を用いて妨害してはならない。

二  申請費用は被申請人の負担とする。

理由

第一申請(略)

第二事案の概要及び主要な争点(略)

第三争点に対する判断

一  争点1(申請人の業務の内容)

1  本件疎明資料(〈証拠略〉)によれば、申請人・眞壁組間の継続的取引についての基本契約書面は交わされておらず、現実の取引における眞壁組から申請人に対する指示内容や生コン納入伝票の流れなどから疎明される三社の関係は次のとおりである。

生コンの注文を取ってきた眞壁組は、申請人に対し、生コンを製造し指定工事現場へ納期にあわせて納入することを注文する。成進は単に申請人から生コンの運送業務のみを委託されている(〈証拠略〉)ものである。申請人の業務は納入先の各工事現場で指示どおりの品質の生コンを納入して納品伝票に荷受のサインを受けることによりはじめて完了し、眞壁組から代金の支払いを受けられることとなる。右代金には生コンの運送代金も含まれ、申請人から眞壁組へ請求されるが、支払い時期との関係で、成進の取り分については、申請人の了解のもと、眞壁組から成進に直接支払われている。

なお、申請人と同様の立場にある申請外日本一生コンクリート株式会社(以下「日本一生コン」という。)の創業当初検討された契約書案(〈証拠略〉)によれば、日本一生コンの業務は、生コン等の納期にあわせた製造に限られ、搬出は成進の業務とする継続的基本契約を申請外眞壁組を含めて締結することとなっていた。しかしこの案は調印に至らず、現実の日本一生コンの業務とは異なるから、この契約書案の存在は、申請人の業務についての右認定を覆すものではない。

2  以上、申請人は単に生コンを製造するのみならず、これを工場から搬出して指定工事現場に納入することまでを業務としており、このうちの運送業務につき成進に委託しているという法律関係にある。よって、生コンの材料の搬入が申請人の製造業務の一環であることはもちろん、製造した生コンの工場からの搬出も成進ないし各個人営業主の業務であると同時に、これを委託した申請人の納入業務の一環であることは自明の理といえる。

二  争点2(被申請人の行為の正当性の有無)

1  本件疎明資料によれば、被申請人は、突然平成二年四月一一日午前八時すぎころ、被申請人に加入した前記六名の営業主の他約三〇名の支援者を動員して申請人工場に乗り込みストライキを通告し、同日午後三時ころまで工場正門前にピケを張るなどし、すでに製造した生コン(コンクリートミキサー車二台分)の搬出妨害を解除することと引換えに申請人にこの間の生コンの製造出荷を断念させた。

同月一六日にも被申請人は申請人工場正門付近の公道に二台の車両を置き、組合員ら約一〇〇名がその回りを取り囲む等してコンクリートミキサー車の申請人工場への出入りを妨げて生コンの搬出を妨害し、二二日には約五〇名の組合員らがセメントローリー車の前に座り込んだり工場正門前に集結して、三台のセメントローリー車のセメント搬入を断念させた。

2  ところで、ピケッティングによる業務妨害が労働組合の正当な活動として違法性を阻却されるためには、その相手方に対しその「自由意思」によって出入りを決しうる余地を残すものでなくてはならないと解される。しかし、本件においては、仮に申請人が被申請人主張のとおり被申請人に加入している六名の営業主の実質的な使用者として団体交渉に応じるべき立場にあるとしても、申請人の業務であるコンクリートミキサー車による生コンの搬出・セメントローリー車によるセメントの搬入を車両等の妨害物を置いたりその前に座り込んだり立ちふさがるなどして妨害するという被申請人の右一連の行為の態様は、その相手方に自由意思によって出入りを決しうる余地を残さないものであるから、労働組合の正当な活動として許される範囲を超えた実力行使として違法なものというべきである。

三  保全の必要性

生コンは、ミキサー車で攪拌していても、製造後時間が経過するにつれ品質が劣化し、納入時間が遅れると注文主の要求する品質を保つことができなくなる。また、工事現場では工事の進行状況に応じて生コンを必要とし、納入時間の厳守が不可欠である。それゆえ一旦製造してコンクリートミキサー車に積み込んだ生コンの出荷を妨害され続けると当該生コンは注文主に引き取ってもらえず廃棄処分せざるをえないため、生コンの搬出を妨害された申請人は、生コンの製造そのものを断念せざるをえなかった。

その後も被申請人の妨害行為が波状的に続いており、今後も繰り返されるおそれが高いため、ユーザーから申請人の生コンの安定的供給能力を疑問視して取引を遠慮する申し出が相次ぎ、被申請人の行為による申請人の損害は、単に当該取引上の損失にとどまらず、申請人の経営そのものを圧迫している。

よって保全の必要性もあるということができ、申請人は、その営業権に基づき、被申請人がその所属の組合員または、第三者をして、行なわせる右のような実力による営業妨害行為をさしとめる権利を有する。

四  結論

以上、本件仮処分申請は、理由があるから、本件における事情を考慮して申請人に主文掲記の保証をたてることを条件としてこれを採用し、申請費用の負担につき民事訴訟法八九条にしたがい、主文のとおり決定する。

(裁判官 水谷美穂子)

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